それはある夜のことだった。
ビリビリという異音でボクは目を覚ました。
焦げ臭いようなにおいがする・・。まさか火事か!?
飛び起き、部屋の明かりをつける。
見回してもどこも燃えてはいない。燃えてはいないが・・。
そのときにボクの視界に入ったのは、火ではなく、部屋の中に浮かんでいる闇の渦のような物体だった・・。
その渦のまわりには青い電光が何本もはしり、うごめいている・・。
一体何だこれは・・。
焦げ臭いようなにおいは、この青い電光が発しているのだろうか。
何が起こっているんだ・・。どうしてボクの部屋にこんなものが・・。
どうしていいかわからず立ちすくんでいると、円形だった闇の渦がその形を変えていることに気づいた。
次第に縦長にのびて楕円形に広がっていく・・。
そしてその渦の中から、何かが伸びてくるのが見える・・!
・・それは手だった。
そしてもう一本の手も、伸びてくる・・、さらにツノのようなものが見え、やがて全身がその姿を現した。
それは人間のような・・、でも明らかに人間じゃない。人間に似たなにかだった。
今、ボクの部屋の中に、その『なにか』が侵入してきたのだ。
そいつはあたりを見回した後、ボクのほうを見る・・。
しぼりだした声はかすれていたが、そいつには聞こえていたようだった。
頭の中が真っ白なまま時間だけが経過していく。
この『魔人』はずっとこちらを見ている。
しばらくその状態が続いたあと、魔人が再び口を開いた。
この部屋と、その住人であるお前のことを観察していたのさ。だからそのくらいは知っている。
そうだ、さっきの黒い渦は・・?
魔人の後ろに目をやると、闇の渦はいつの間にか消えていた。
お前の部屋があまりに汚すぎるせいで、この場所に混沌の特異点が生じ、オレが住んでいる亜空間とのポータルができてしまったようだ。
そんな・・バカなことが・・。
魔人は部屋の中を見回している。
そりゃ、こんな環境ならポータルの一つや二つできてもおかしくはないかもな・・。ククッ。
そ、そんな・・。めちゃくちゃ期待しちゃったじゃないですか。ひどい。あなたはひどい人間だ。
それを考えたら、散らかったまま暮らしたほうが楽ってことですよ!
だがそれは、お前がこの環境に順応してしまっているにすぎないと思うぜ?
人間っていうのは順応性が高い生き物だから、どんな環境であっても長く生活しているとある程度適応して、居心地が良いとさえ思うようになる。
混沌とは秩序立った状態の対極。
お前にとって快適とはとても思えんのだが?
- 物が見つからなくてしょっちゅう何かを探している
- タンスや押入れが放置されて機能していない
- 体を伸ばして眠ることができない
- 異臭が発生している
- 虫や菌類と同居している
- 空気がよどんでいる
- 他の人間を部屋に入れることができない
人間にとってこういう生活は快適ではないと思うのだが・・。
思い当たるところがあるのではないか?
そういうヤツらはどうして片付いているのか、その理由を考えてみたことは無いのか?
だから、ほとんど常に片付いた状態でくらしていける。
その仕組みさえできていれば、部屋を片付いた状態に維持することは簡単にできる。
ちゃんと理解した上でその仕組みを構築すれば、たとえお前のようなだらしない人間であっても片付いた状態を維持できるとおもうぜ?
魔人さん、その仕組みをボクに教えてくれませんか??
それを聞いたうえで、もしもボクにもできそうであれば、仕方ないから片付けを始めてみます。
そのうえで、このまま汚部屋に暮らすもよし、片付いたキレイな部屋で暮らすもよし、好きにすればいいだろう。